相続と家族関係
2021/04/07 相続
相続のセミナーなどでよく言われる言葉がある。
「相続」が「争族」となり「争続」となる。
そして争っているのは血のつながった家族だ。
親子関係をより良くするためのコミュニケーションについて学び、それを仕事としているとその原因がどこにあるのかがわかってきた。
目次
残念な愛情表現
ほとんどの親は子どもに愛情を持っている。ところがその愛情の伝え方を間違えてしまうのだ。
私もかつては何度もやらかした。
大事なわが子を「ちゃんと育てなければ。」「人様にご迷惑をかけない子にしつけなければ。」という気持ちが先走り、子どもの気もちを置いてきぼりにしてしまっていた。
親に悪気はない。それどころか「良かれと思って」行動している。
だから始末が悪い。行動が変わらない。
思春期になり、子どもから反抗を受けて、親も子離れし、子どもも親離れしていく中で、お互いにあきらめていく部分もあるだろう。でも、多くの場合、心に傷を負っているのは子どもの方だ。
平等に育てる?
また、きょうだい間の問題もある。
同じ親から生まれたとはいえ、子どもは一人ひとり違う個性を持つ。出来事に対する考え方や感じ方もそれぞれ違うのが普通だ。
親は同じように育てたつもり。その時々で最善の選択をしたと思っている。
でも、同じだと思ったのは親の方。
最善と思い選択したのは親の方。
きょうだい平等に育てられたと感じているかどうかは、子どもに聞いてみなければわからない。
それぞれに「自分の方が大切にされなかった」と思っていることもよく聞く話。
親が同じように育てたかどうかが問題なのではなく、子どもが同じように大事に育てられたと感じているかどうかが問題なのだ。
生まれてから独り立ちするまで、20年近くもの間、親の力を必要とする生き物は人間だけだ。
しかも生まれてからしばらくの間は親に見捨てられたら生きていけない。
大切にされなかった子どもの気もち
子どもは知らない間に親の顔色をうかがい、どうすれば親の機嫌が悪くならないか、敏感に察知する。
子どもから行きたいと言い出した塾やお稽古事も、そう言えば親が喜ぶと、子どもが感じて口にしている場合もある。それくらい子どもは親の気持ちを無意識に考えているのだ。
そうして大切な自分の気持ちを隠し、抑え込み、親にとって「都合のいい子」になっていく。
本来であれば、自分の気持ちをよく感じ、どうしたいのか素直に表現できて、自分に関することを自分で選択・決断できれば、その人の人生はとてもエネルギーに満ちた幸せなものになるはずだ。
けれど自分の気持ちを抑え込み、親の価値観や世間の常識などを判断基準にして人生の選択を続けていくと行き詰る。
「親の言うことをよく聞くいい子」が思春期にキレるのも、逆にエネルギーを失い引きこもってしまうのもそのためだ。
また、問題として表面化しなくても、心に不満を抱えながらやり過ごしていることもあるだろう。
相続こそ平等に!
そして親の相続の場面で、解決されずに心にしこりとなっていた問題が吹き出てくる。
さらにその時点で相続人がそれぞれ経済的に余裕があるかどうかも鍵だ。
きょうだいに対する不公平感を抱きながら、さらに経済的な不安を抱えている状況で発生した親の相続の場面で、「法定相続分で、平等に分けて欲しい。」という発言になっていくのだろう。
分けにくい遺産
そうなって困るのが日本の多くの家庭が置かれている遺産の状況。
不動産とちょっとの預貯金。
不動産とたっぷりの預貯金であれば、分けられるかもしれないが、多くの場合そうではない。
相続税を払うかどうかでもめる人よりも、圧倒的に多いのは遺産をどう分けるかということ。
今まで不公平に扱われてきたと思っている子どもにとっては、親の最後の時くらいは平等に扱って欲しいと主張をしたくなるのも当然のことだろう。
ここで親子でもきょうだいでも、もめることになる。
子どもは昔のことを持ち出しあれこれ主張する。
親は「そんな昔のことを今ごろ言ってどうするの。」と聞く耳を持たない。その元気もない。
でも、傷ついてきた子ども心を今やっと表現することができる年齢になったのだ。
そんなこんなで「相続」が「争族」となり「争続」となる。
親が残すべき最大の財産
親の立場にある人は、子育ての中で子どもの気持ちに耳を傾けることを心がけて欲しい。
そして子どもが満足するまで、しっかり時間をかけて欲しい。
子どもが親から無条件に愛されたと思えたとしたら、きょうだいそれぞれが満足していれば、相続でもめる可能性はかなり低くなるだろう。
親が残すべき最大の財産は、信頼しあえる良好な家族関係だと私は思う。
親子のマネーカウンセラー 鶴田明子