進路選択と親子のマネーコミュニケーション
2017/04/08 学費
子どもが高校生となり卒業後の進路選択の時期、親子で話し合いが必要になってきます。
その時に、思いがけないトラブルにならないために必要なことを考えてみましょう。
ここでは、アドラー心理学に基づいて作られた「より良い親子関係講座 アクティブ・ペアレンティング(AP)」の手法を用います。
目次
1.進路選択に含まれる2つの課題
子どもとの間で起こる問題解決に必要な『課題の分離』という考え方があります。
問題が起きた時に「それは誰の問題か?」と考えることから始めるのです。
保護者は何でも「親の責任」というふうに思い、問題を悪化させてしまったり、子どもとトラブったりしてしまう。そしてそれは、子どもから問題解決能力を奪い、責任感も奪ってしまいます。
人として大切なのは自分の問題を自分で解決できるようになることです。そのためにも問題が起きた時に、誰の問題か考えることが大事になります。
自分の問題なのに人から勝手に決められてしまったのでは、そのことの結果に責任が持てなくなるし、うまくいかなかった時に、相手のせいにしたくなります。
自分の問題は自分で考え、選択・決断し実行することがとても重要です。
1-1 課題の分離
進路選択には2つの課題があります。
一つは「学費」のこと、もう一つは「進路を選択する」ということです。
「学費」は保護者の課題で、「進路選択」は子どもの課題です。
1-2 課題の見分け方
それが誰の課題なのかは、
① そのことに誰が困っているのか。
② そのことの結果が誰に帰ってくるのか。
という視点で考えます。
「学費」つまりお金のことは保護者に結果がかえってくるので保護者の問題。特に高校卒業後に必要になってくる学費などは高額になるため、老後にも大きな影響が出ます。しっかり考えて予算を立てなければいけません。
「進路選択」はどんな進路を進もうと、その結果は子どもにかえってくるので子どもの問題。自分でしっかり考えて選択・決断する必要があります。自分が納得しないまま決められた進路にすすみ問題が生じた場合、本人に責任をとらせることは難しくなります。保護者がいくら子どものためと思い勧めた進学先であったとしてもです。年齢が行けばそのやり直しはさらに難しく、親子関係が悪化したり、子どもがエネルギーを奪われ動けなくなることもあります。
だからこそしっかりと課題を分けて自分の課題に取り組むことが大切です。
1-3 課題を分けにくい保護者の心理
さて、課題を分けることが頭で理解できても、心理的にはとても難しい側面があります。それは大金を出す保護者の心理です。
通常人がお金を使うときには、自分の価値観に沿ったものとの交換にお金を使います。
特に進路選択に関しては、大きなお金を使わなければいけないので自分の価値観に沿った進路に行くことを強く望んでしまうのもしかたがないのです。自分が全く納得できない進学先に必要な学費など出したくない、と思うのは当然の気持ちです。
だからといって「誰がお金を出していると思っているんだ。」と言って、子どもの気持ちを無視して自分の思い通りの道に進ませたとしても、そこでうまくいかないことが起きた時にはもっと困ったことになる可能性があるのは、前に説明したとおりです。
だからこそ、日常的により良い親子関係を築いておくことがとても大切になります。いつでもどんな時でも思ったことが言えて、違う意見でもそれを認め合い、どうすればいいのか話し合うことができれば、お互いが納得できる選択にたどりつけます。
2.お金の課題
2-1 保護者が考えること
お金の課題では、自分の今後の生活も考えながら「いくらまで」出せるのかを考えます。その時に力を発揮するのが家計のシミュレーションです。今後の収入と支出をデータ化し、見える化することでいくらまでなら出せるというのが科学的にはじき出されます。
そして子どもに提示します。「あなたのために準備した学費はこれだけです。」と。
その時に大切なのは「これだけしかないんだから、行けるのは国公立大学だけよ。」などと進路まで決めつけないことです。それは子どものやる気も育てませんし、心理的に追い詰めるだけで逆効果です。
2-2 子どもに相談できること
お金の問題は保護者の問題だからといって、子どもには全く関係ないわけではありません。子どもにもお金の話をしてほしいと思います。
それはお金がある、なしにかかわらずです。
子どもからみると、十分なお金を持っているように感じられ、たくさん出してと言われたとしても、言いなりに出す必要はありません。自分たちの老後のために必要なお金だと言うことも、この機会に話しておくといいでしょう。いつまでも世話になることができないという自覚にもつながります。
お金がない場合も落ち着いて話します。その上でできることを一緒に考えます。
たとえば奨学金。国の機関である日本学生支援機構の奨学金は貸与型(現在、給付型も検討されています)。学生時代に奨学金を借り、卒業後に返還します。返還するのは子ども自身です。それでも進学したいのかどうかを親子でしっかり話し合います。その時に、「選択の結果はすべて自分にかえってくるのだから、しっかり自分で考えて結論をだすことが大切だ。」ということを伝えます。そうすると他人事でなく、自分の事として子どもは考え始めます。
子どもの頑張りにより、給付型(返済不要)の奨学金を利用できる場合もあります。家計の状況によっても給付が受けられることがありますので、しっかり調べてみましょう。
また、アルバイトも選択肢に入ってきます。
これらのことを冷静に話し合うことは、お互いの信頼を深めることにもつながります。
3.進路選択の課題
3-1 壁のないコミュニケーションで子どもを応援する
進路選択は子どもの課題です。子ども自身がしっかり考えて選択・決断する必要があります。
ですが、その子にとっては大きな決断です。不安な気持ちを抱えたり、逆に夢のようなことばかりを考えているかもしれません。
思春期に入っている子どもは何でも保護者に相談はしないかもしれません。けれど進路選択にはお金の問題もからんでくるので、学校からも「保護者とよく相談するように」と指導があります。
本人も保護者に相談にのってもらいたいのが本音でしょう。けれど関係がよくなければ話し合うことも難しくなり、不本意な選択をすることにもなりかねません。
子どもの話にはまず、真剣に耳を傾けましょう。「傾聴」の姿勢です。
話し始めたとたん、親の正論や押しつけがましいアドバイスが始まると子どもは逃げ出してしまうでしょう。立場を変えて考えてみればわかることです。まずは黙って「聴く」ことです。
十分聴いてもらうと子どもはほっとします。そしてしゃべりながら問題点や不安な点も明らかになってきます。
そしてしっかりと自分の話を聴いてくれる相手には、信頼の気持ちが出てきます。そうすると「お父さん(お母さん)はどうするのがいいと思う?」という言葉につながったりします。
その時も「この進路にしなさい。」と言うのではなく、「お父さん(お母さん)は、この進路がいいと思うよ。」というように、あくまでも自分の考えですという表現を心がけましょう。これはAPでは「マイメッセージ」と言い、「私は」を主語にして話すことで、相手の課題に不用意に踏み込むことを避けることができます。
また、夢みたいなことを言っている場合でも頭ごなしに否定したりせず、「そうするとどうなると思う?私たちはこういう点でその選択には問題があると思っているよ。」と穏やかに伝えることができます。信頼関係ができていれば、子どもにも保護者の気持ちがストレートに届くと思います。
3-2 子どもの将来に目を向ける
進路選択は学校を卒業した先のことも話題になります。それは子どもがどんな仕事をし、収入を得て、どんな暮らしをしたいのかにもつながります。
夢物語を語っている子どもたちとも、将来について話し合いが持てるといいですね。その時も「冷静さ」が大切です。
保護者が心配のあまり、子どもの夢物語を認めず、現実に引き戻そうと焦ってしまうと、子どもの課題は保護者から横取りされたことになり、結果がよくありません。
そんな時に効果を発揮するのが、制限を与え、選択をうながすことです。
3-3 制限の中での選択
どんな選択にも制限があります。時間の制限とお金の制限です。
進路選択で言えば、子どもの課題だからといっていつまでも自由に選択させることは違う問題も引き起こします。
保護者のお金には限りがあります。子どもを自立させたあと、自分たちが自立して暮らせなくなるほど子どもにお金をかけるのは問題があると思います。だからこそ、しっかりと予算を決めて子どもに提示することが大切です。
お金が十分にある場合でも、時間の制限をつけることは大切です。
子どもを医者にさせるために、予備校に何年も通わせ続けている人の話を聞きました。保護者はお金には困っておらず、学費を出し続けているそうです。けれども子どもは20代後半、そうなると他に進路変更することもできなくなってきます。
保護者も子どもの成長に伴って年老いていくこと。いつまでも現役時代のように経済的援助はできないこと。大切なことをきちんと伝えることもこの機会に話し合っておきましょう。
お金のことを考えるというのは、幸せに生きることを考えることだと私は思います。
ぜひ、親子でいい話し合いをしてください。
親子のマネーカウンセラー 鶴田 明子